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佐藤春詠さんインタビュー
高いフィジカルと長身が武器のフォワードとして誕生間もないマリーゼを引っ張った佐藤春詠さん。2006シーズンをもって惜しまれつつマリーゼを退部した彼女の活躍を脳裏に焼きつけているサポーターも多いはず。佐藤さんは現在、活躍のフィールドを新しい場所に移している。彼女はどのような想いでサッカーから離れ、そして今はどのような生活を送っているのだろうか。
インタビュー当日、佐藤さんはスーツ姿ではなく、東京電力の作業着を着慣れた様子で登場した――
佐藤春詠さん
マリーゼの活躍は刺激になります
―マリーゼを退部されて1年が経過しました。まず現在の心境を聞かせてください。
サッカーに関しては精一杯やって燃え尽きることができたので、後悔することなく終わることができました。それに、あのまま続けていても、体のことを考えると果たしてチームに貢献できたのかわからなかったですし、「やっぱりサッカーを続けていればよかったかな?」と考えることはありません。ひとつだけ心にひっかかっていた二部降格についても、1年で一部に昇格することができたので良かったと思います。

―2007シーズン、マリーゼの試合が行われる会場で何度か佐藤さんの姿をお見かけしました。
Jヴィレッジで行われる試合は全て観戦に行きました。開幕直後は少し心配なところもありましたけど、徐々にかみ合ってきて、最終的には良いチームに成長しました。でも正直なところ、マリーゼは一部で戦うべきチームだと思っているので、欲を言えば「もうちょっとできないと!」と思う部分もありますね。

―なかなか厳しいですね(笑)。今でもサッカーとの関わりはあるのですか。
今は、たまにJヴィレッジで小学生の女の子が参加するサッカースクールでボランティアとしてコーチをしたり、週一回フットサルをするぐらいです。それ以外に、例えば指導者を目指したり、サッカーの普及活動をするといったことは今のところありません。

―マリーゼを退部後、佐藤さんは福島県に残りました。ご出身の群馬県に戻るという選択肢はなかったんですか。
いえ、ありました。群馬にも東京電力の支店がありますから。これはあくまでも私の個人的な意見なんですが、マリーゼにいて会社や地域からすごく良くしてもらっていたのに「退部したから地元に帰ります」って言うんじゃ、ちょっと寂しいかなと思ったんですよね…。

―なるほど。ただ、そういう考えを持つことは難しいことかもしれません。
人からは「変わってる」ってよく言われます(笑)。実は、両親は戻ってきて欲しかったみたいなんです。でも、両親が元気なうちは好きなことをやらせてもらおうかなと思って。
そして、もうひとつ福島県に残った理由は、やっぱり二部降格が心に引っかかっていましたし、マリーゼの活躍を身近で見守りたかったからなんです。彼女たちが頑張っているのを見ると刺激になりますし、「私も頑張ろう!」と思うことができるんです。だから、マリーゼにはもっと強くなってもらって、より多くの人にパワーを分けてあげられるようなチームになって欲しいと思います。
佐藤春詠さん
写真は2006シーズンのものです
毎日が充実しています
サッカーとマリーゼへの想いを聞かせてくれた佐藤さんは、現在、福島第二原子力発電所で日々チャレンジを続けている。マリーゼを退部してから彼女にはどのような変化があったのだろうか。ライフスタイルの変化と仕事への想い、そして今後の目標を聞いてみた。
佐藤春詠さん―長年続けてきたサッカーから離れたわけですが、生活スタイルも大きく変わったんじゃないですか。
変わったことはいくつかありますが、ひとつは一人暮らしをはじめたこと。退部してからも入れる寮があるんですけど、私は高校を卒業してからすぐLリーグ(現・なでしこリーグ)に進んで、昨年までずっとサッカー中心の生活を送っていました。住む場所もずっと寮だったんです。だから、「一人暮らし」への憧れをずっと持っていたんです(笑)。
でも、いざ一人暮らしを始めると、金銭的な面でも負担は増えますし、自分でご飯を作ったり、掃除をしたりしなくてはいけないし…。あっ! 掃除は現役時代もちゃんとやっていましたよ、少しは(笑)。でも、今はなにもかもが新鮮で、楽しくやっています。


―ほかに大きく変わったところはありますか。
やっぱり、丸一日仕事をしていることもとても大きな変化だと思います。現役時代は午前中に仕事をして、午後からは練習という生活でしたから。それと私、マリーゼにいたときは事務職だったんですけど、退部後、技術職に職種変更をしたんですよ。

―え?退部されて、さらに職種変更。それはなぜですか
一番の理由は原子力発電所そのものに興味があったからです。だって、なかなか原子力発電所で働くことなんてできないですよね。でもそれが、マリーゼに縁があって、原子力発電所で働くことになった。ちょうど、事務職時代の上司の方が技術職を務められてたご経験があって、いろいろと話を聞いてみると「おもしろそうだな。原子力発電所のことをもっと知りたいな」と思ってきたんです。そんなときに上司の方から「じゃ、職種変更をして、技術職にいってみるか?」と言われたので、「是非!」って即答しました。
苦労もあるかもしれないけど、新しいことにチャレンジしてみたい!興味あるところに飛び込んでみたい!という思いが強かったんです。


―では、現在の仕事内容を具体的に教えてもらえますか。
今は監理員として、福島第二原子力発電所 保全部 タービン(3・4号)グループに所属しています。タービンというのは、高温の蒸気の力を利用して回転する力を作り出すもので、発電所になくてはならないものなんです。そのタービンがある施設の管理や、不具合があったときに協力企業の方々と一緒に修繕工事をしたりします。原子力発電所は24時間365日休みがないので休日待機の業務もありますし、工事積算の業務などもやっています。
簡単に言うと、原子力発電所を安全・安心に稼動させるためのタービン保全・保守業務です。サッカーチームで例えると、トレーナーに近いかもしれませんね。
佐藤春詠さん
―これまでとはまったく違う業務内容ですね。
そうなんです。2007年の2月頃、技術職になるための手続きなどを終えて、4月から新入社員と一緒に半年間の研修に入りました。それを経て10月から今のグループに配属になったんです。監理員になるために特別な資格など必要ないんですが、やっぱり勉強はたくさんしましたね。私の場合、今までサッカー中心の生活で勉強なんてあまりしていませんでしたから(笑)。
研修などでは電気のことを勉強するんですけど、はじめのうちは「ボルトって何?アンペア? オ、オーム?」という感じでした(苦笑)。今でも研修はありますし、テストだってあるんですよ。


―日々の業務も大変そうですね。
まだまだわからないことはたくさんありますし、業務で体力的に辛かったり、厳しいことを言われたりします。連日の残業だって普通にあります。でも、技術職に変更すると決めたときにそういったことの覚悟はしていましたから。それに、サッカーの経験がすごく活きてると思います。サッカーの練習や試合で肉体的・精神的にもっと辛い思いをしていましたので、乗り切る自信があります。
あと、今の職場は40人くらいいて女性が私ひとりなんですが、周りの方々からいろいろなことを丁寧に教えていただいてますので、戸惑いもありません。


―仕事に取り組む姿勢も変わったのはないですか。
現役のときも仕事はしっかりとやろうと思っていましたので、周りの方々には「午前中はこき使ってください」と言っていたんです。でも、できることが限られていたので…(苦笑)。
とにかく、私自身は午前の仕事も、午後からのサッカーも100%の力でやろうと思ってましたので、取り組む姿勢は今も変わらないと思っています。ただ、サッカーに向いていた情熱が、今度はすべて仕事に向いているという感じです。それに、あの頃より責任がある仕事をしていますから、毎日が楽しいし、充実した日々を過ごしています。
あっ、でも、仕事ばっかりやってないで違うこともやらないと、っていう思いも少し…。早くお嫁にも行きたいし(笑)。


―ちなみに、今、仕事以外に興味があることはなんですか。
旅行ですかね!サッカーで全国あちこち行っていますけど、試合会場と宿泊先の往復しかしてない場所が多くて、その土地の文化にはほとんど触れていないんですよ。だから長い休みがあったら、行ったことはあるけどよく知らないという場所に行ってます。そうそう、休みといえば、現役のときはシーズンに入ると土日に試合や移動が多かったんですけど、今は土日が基本的に休みになったことがすごく嬉しいんです。祝日が重なって三連休になったりすると、すごくハッピーになります!

佐藤春詠さん―では最後に今後の目標を教えてください。
会社には、マリーゼにいるときからすごく良くしてもらっていましたから、とても感謝しています。私はサッカーから離れてしまいましたが、今度は仕事で恩返しをしていきたいんです。ですが、今は、学ぶことばかり…毎日わからないことを人に聞いてばかりで迷惑をかけていますので、もっと仕事を理解して、早く一人前の監理員になりたいです。
あと、いつかマリーゼを退部された人の中から「私も技術職をやってみたいです」っていう人が出てきたら嬉しいです。

―今日は長時間ありがとうございました。


現役の頃は、マリーゼのユニフォームを身にまとい、経験豊かな選手として周囲のメンバーを“ピッチ”という場所でカバーしながらサッカーをする立場だったが、今は、東京電力の作業着を身にまとい、好奇心旺盛な新人社員として周囲のメンバーにカバーされながら仕事へ熱意を注いでいる佐藤さん。
仕事の話をするときの楽しそうな表情を見ると、彼女がまた、周囲のメンバーをカバーする日は遠くないのかもしれない。そう、今度は、一人前の監理員に成長して“原子力発電所”とういう場所で。
佐藤春詠(さとう はるえ)
1976年、群馬県伊勢崎市生まれ。日興證券ドリームレディース、OKI FC Winds、2000年にYKK東北女子サッカー部フラッパーズに入団。チームの移管と同時に東京電力女子サッカー部マリーゼへ。長身を活かしたポストプレーを武器に攻撃の核としてチームを引っ張った。日本代表にも選出され、16試合出場4得点という成績を残す。2006年シーズンを最後にマリーゼを退部した。
 
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